look inside

w18.8 x h30 cm
32 ページ
20 イメージ(カラー)
並製本
カラーオフセット印刷
初版
Published in 2018
ISBN 978-4-908512-37-7

日本列島 秋田

石川直樹(Tokyo, Japan)

 真冬のことさら寒い日、北秋田への旅に出た。十和田湖の静謐な湖畔をひたすら歩き、康楽館に立ち寄った後、赤湯という温泉に到着した。旧奥羽本線の線路が通っていた橋脚沿い、秋田杉の天然木に囲まれた山奥に湧き出す秘湯である。地表にあいた穴ぼこにそのまま湯を注いだような温泉は、体を芯から温めてくれた。
 赤湯の駐車場から山の方に登っていくと、使われていないトンネルがあり、藪漕ぎをしてトンネル内を探索した。闇の奥に、氷に閉ざされた別世界が続いている。冬の赤湯はどこか浮世離れした空気を纏っていた。
 赤湯がある矢立地域には、「人形さま」あるいは「人形道祖神」と呼ばれる、藁で編まれた道祖神があちこちに立っている。男神と女神が村の上の入口と下の入口に分かれて立っていることもあれば、二体が一緒に立っているところもある。どれも悪霊が村に入り込まないように両腕を広げ、村人が無病息災で暮らしていけることを願って作られたものらしい。
 大晦日の夜、男鹿半島の数十の集落で同時に行われる来訪神行事、ナマハゲもこのような風習に通じている。
 最も歴史が古いとされる真山地区のナマハゲに同行したときは、行事を執り行う若者たちと共に軽トラに乗せてもらい、暗い雪道を走りながら地区内を移動した。家の前に来ると二人の若者が車から降り、おずおずと面をかぶって、腹の底からうなり声をあげて玄関に歩み寄る。そして、おもむろに扉や窓を激しく叩きはじめるのだ。
 ナマハゲだけではない。秋田には他にも雄和町のヤマハゲ、石名坂のアマノハギ、能代のナゴメハギといった類似の行事がある。ぼくはそのすべてを一つ一つ時間をかけて見てまわった。いつも夜風が痛いほどに冷たく、強烈な寒気におそわれながら深夜まで行事に同行した。
 仮面をかぶる青年らは訪ねる家の軒数が多くなるにつれて酔いが回っていくのだが、ひとたび面を装着すると何かが乗りうつったかのように突如変身する。そうした姿を目の当たりにするたび、仮面が持つ不思議な力のことを思った。
 道祖神は村の外と内を、来訪神はあの世とこの世とを繋ぐ、どちらも境界の神だろう。村の中に入りこめば入りこむほど、日常の真裏に潜む異世界を感じずにはいられない。それが、秋田に抱くぼくの率直な印象である。