look inside

w18.8 x h30 cm
32 ページ
20 イメージ(カラー)
並製本
カラーオフセット印刷
初版
Published in 2018
ISBN 978-4-908512-34-6

日本列島 東京

石川直樹(Tokyo, Japan)

 ぼくは東京都渋谷区初台で生まれた。以来、小竹向原や明大前を経て、現在は東横線の学芸大学駅の近くに住んでいる。こちらに暮らし始めてかれこれ25年になるが、ここが自分の地元である、という意識はあまりない。
 その理由は、幼稚園から高校まで、飯田橋と九段下のあいだにある私立学校に通っていたからかもしれない。家の周辺というよりは、幼・小・中・高と合計15年間通い続けた学校の近辺のほうがよほど親しみを覚えている。
 一人で電車通学をするようになったのは、小学1年生のときだった。小竹向原から飯田橋まで、地下鉄有楽町線に乗った。朝は通勤ラッシュのピークと重なり、大人の腰あたりの身長だったぼくは、スーツ姿のサラリーマンのあいだで押しつぶされそうになりながら、本を読んでいた。
 ラッシュの車内で大人が身動きできないなか、子どもだけが入り込める隙間があった。そこに立ってしまえば、自分の世界に入りこめる。ぼくは満員電車に揺られながら、毎朝、本の中の世界を旅した。思えば、自分の基礎はあの頃に作られたのではないか。
 その後、大学で高田馬場、大学院では上野に通い、現在の仕事場は中目黒にある。こうして振り返ってみると、東京のあちこちに自分が残した足跡が浮かび上がってくる。
 東京には固定された色がない。移り変わりが早く、無色透明で、全国から人が集まっているにも関わらず、だからこそ街の中にさっと溶け込んで自分の存在を消すことができる。
 ぼくには故郷がない、とずっと思っていた。「故郷」と呼べるほどの思い入れや情を、自分が東京にもっているとはとても思えなかった。が、今まで撮ってきた写真を振り返っているうちに考えが少し変わった。無色透明だと思っていた東京に、ぼくは自分の内から滲みだしたあらゆるものを深く染み込ませて、今ここにいる。強いて東京に色をつけるとすれば、鈍色とでも言うしかない。
 あらゆるものに溢れていながら空っぽで、せわしないけれどそこにたゆたう自分自身はなんとなく落ち着ける。18歳のときにはじめて訪ねた小笠原諸島も含め、自分が青春時代を過ごしてきた場所であり、好きとか嫌いとか言う以前に、自分と一体になっているような地、それがぼくにとっての東京である。