look inside

w18.8 x h30 cm
32 ページ
20 イメージ(カラー)
並製本
カラーオフセット印刷
初版
Published in 2018
ISBN 978-4-908512-38-4

日本列島 大分

石川直樹(Tokyo, Japan)

 大分県には三年ほど通った。国東半島で開催される芸術祭への参加がきっかけだったが、その後も縁ができて、瀬戸内海に面した姫島や、別府をはじめとする県内の多種多様な温泉を含め、あちこちを歩いてきた。
 大分をたびたび訪ねる端緒となった国東半島は、朝鮮半島からの文化が九州北部を伝って瀬戸内海に入ってくる際に出会う交差点のような場所だ。そこには、修験道をはじめとする山に根付いた文化と、多様な祭祀を含む海と関わりを持つ渡来の文化がまじりあい、独特な風土が生みだされた。
 半島内の寺で「修正鬼会」という祭祀が一年に一度開催される。僧侶が仮面をかぶって鬼に扮しているのだが、その体を縄で縛られているのは、鬼の魔力を封じ込めるためだという。
 寺での儀式が終わると、鬼は集落に入り込み、民家を回ってその家の先祖に祈りを捧げ、家族と杯を交わして歓談する。深夜、日付が変わっても鬼の訪問は延々と続く。里の人々は、日ごろの感謝を込めて鬼のことを「おにさま」と呼び、どんなに遅くなってもきちんと正装して、鬼がやって来るのを待ち続けるのである。
 すべての訪問を終えて、鬼が寺に戻ったのは明け方近くだった。最後は興奮と酩酊から、寺の中で鬼が暴れ、他の僧侶が押さえつけなければならなかった。やがて仮面を剥ぎ取られ、縄をほどかれると、鬼は山へ帰る。と同時に、鬼と化していた僧侶はようやく日常の世界へと呼び戻される。
 国東半島には他にも奇祭が存在する。国見町の岩倉社で毎年10月に行われるケベス祭りも忘れられない。白装束に木製の仮面をかぶったケベスが、燃え盛るシダの山に突入し、火の粉をまき散らす。無形民俗文化財に指定された今もその起源には諸説あり、歴史も由来もあまりわかっていない。
 こうした儀礼を目の当たりにしつつ国東半島の山地を歩いていると、日本列島の人と山との関わりがおぼろげながら見えてくる。もともと日本列島の山々が、修験者や猟師によって拓かれてきたことを、山中の石仏などからも強く実感させられるのだ。
 最初は漠としていた風景が、通えば通うほどに鮮やかな色彩を帯びていく。日本の一地域をはじめて集中的に撮影し、さまざまな気づきを与えてくれた場所こそが、ここ大分県だった。