look inside

w18.8 x h30 cm
32 ページ
20 イメージ(カラー)
並製本
カラーオフセット印刷
初版
Published in 2019
ISBN 978-4-908512-44-5

日本列島 香川

石川直樹(Tokyo, Japan)

 2019年の元旦、ぼくは高松にいた。
 高松には、実は毎月のように通っている。数年前から、高松で写真学校の講師をやり始めたからで、一年で10回ほどの講座があるために、四年間で40回は通った。香川とは縁もゆかりもなかったのだが、瀬戸内国際芸術祭などに参加しつつ島々を何度も訪れているうちに地元の写真好きな人たちと知り合い、いつのまにか「フォトアーキペラゴせとうち」というグループができて、定期的にワークショップを行うようになった。
 そんなわけで高松には幾度となく上陸しているものの、正月などの節目に居合わせたことはなかった。帰省客も多いであろう四国の玄関口がどんな様子なのか、一度見てみたかった。
 岡山からマリンライナーに乗り換えて、瀬戸大橋を越える。橋の上からの眺めはいつ見てもいい。遠くの島々を見ていると、旅情がかき立てられ、香川の坂出の工場群が目に入ると「ああ、四国にきたな」と思うのだ。
 正月の空気を味わうべく、金毘羅参りをしてみることにした。琴平町にある金毘羅山は、四国随一の初詣客を集めると聞いてきたが、噂にたがわず、人でごった返していた。参道に差し掛かるところで、猿回しをやっていて、人だかりができている。紫色の法被を着せられた猿が台と台の上を飛ぶごとに拍手がわき上がる。  うどん屋の軒先から湯気が漏れていて、思わず入りたくなるのをこらえて坂道を登った。後ろを振り返ると、四国の平野が見渡せる。聖地はやはり眺めのよい場所に生まれるんだ、と思いながらさらに石段を登っていくと、そこに目指す金毘羅宮があった。
 金毘羅山に登ってみたかった本当の理由は、他にあった。金毘羅という名前がネパールのエベレスト近くにあるクンビラ山に由来しているという話を聞いたことがあったからだ。ぼくが何度も訪ねたエベレスト街道の中腹にクムジュンという村があり、その背後にクンビラ山が聳えている。標高が6000メートル近くある、美しくて目立つ山なのだが、近隣に住むシェルパ族の信仰の対象になっており、入山が禁止されている。
 金毘羅権現の由来を調べるとたしかに「クンビーラ」という神さまの名前から来ているようで、自分にとって金毘羅山は、ヒマラヤと四国を繋ぐ稀有な接点として以前から気になりすぎる存在だったのだ。
初詣を済ませ、山腹から香川の風景を堪能しながらまた長い石段を下る。晴天率の高い香川ならではのからっと晴れた夕方、途切れない参道の人ごみにカメラを向けながら、ぼくは正月の小旅行の目的を終えて、いつものビジネスホテルに帰った。平和なせとうち初詣で、ようやく自分の新年がはじまった気がした