look inside

w21 x h28 cm
64 ページ
21イメージ(白黒) 39イメージ(カラー)
並製本
フルカラーオフセット印刷
Limited edition of 1000
Published in 2019
ISBN 978-4-908512-74-2

Don’t Disturb My Disquieting Mood

若木信吾(Tokyo, Japan)

 1995年に僕は東京を訪れた。これが3回目だった。一回目は1988年、高校生の頃、パルコ・ミュージアムにハーブ・リッツの個展を観に行った時。2回目は1989年、高校を卒業して、なかなか希望点数の取れないTOEFLの試験を受け続けていた頃、気分転換に試験場の選択を東京に変え、ついでに東京の大学に入学した同級生たちを訪ねた時。最初の二つは目的の場所があって、時間も限られていたから、ほとんど何もみていなかったと言っていい。田舎から出てきたばかりの僕は、ほとんど目を伏せて、目的地に向かって群衆の中を突き抜けて行った。東京はまだ未成年の僕にとってはまるで森山大道さんや荒木さんが撮るようなモノクロのギラギラした、おどろおどろしい都会だった。「僕は絶対東京に嫌われている」とさえ思った。パルコ・ミュージアムに行っても、ハーブ・リッツの写真集は大きくて高価だったから、代わりにフィリップ・ホルスマンのJUMPというぜんぜん違う写真集を買ってしまうし、訪ねた友達は東京は人が多いと言って、埼玉を案内してくれた。その後、アメリカの大学に受かり、五年間の大学生活も卒業して、ニューヨーク・シティに一年ほど住んだ後、東京を仕事の場所の候補に選んだ。ニューヨークは厳しかったし、ビザも簡単には取れなかったから。アメリカでの数年の生活は東京に向かう僕をとてもワクワクさせた。ニューヨークという大都市の生活を経験した後は、どんな都会も小さく見えたし、気分だけはアメリカナイズされていたから、東京は特にエキゾチックに思えた。長年の教育からも解放され、定職にもついていず、観光気分で訪れた東京で、僕はとにかく自由な気分を感じていた。もう目を伏せて歩くことはなく、カメラを手に、交差点の反対からやってくる群衆の一人一人の表情を観察して歩いた。そして何といっても東京で出会う人たちはみんな優しかった。それでも夜は知り合った人たちの家を泊まり歩いたり、お金のあるときはカプセルホテルに泊まって、時には公園で夜明けまで時間を潰した。孤独と不安という、ひとりの時間になるとやってくる居心地の悪さは、写真を撮って紛らわした。写真を撮っている間は自分がまるで映画の登場人物にでもなったかのような楽しさがあった。